「歳月人を待たず」 ~今を楽しむ~

こんにちは、副住職の秀元(しゅうげん)です。
寒さが本格的になり、布団から出るのがますますつらい季節となりましたね。
皆さま、朝はどのようにして布団との別れを乗り越えていらっしゃるでしょうか。
私も毎朝、「あと1分、あと30秒…」と布団と格闘しております。
そんな寒い日々ですが、身も心も健やかに毎日ほとけさまに手を合わせておられますでしょうか。
ほとけさまと向き合うひとときは、心に穏やかさをもたらしてくれるものです。


お寺では、境内に設置した掲示板で仏教や禅の言葉を紹介しています。
お寺の前は通学路になっているため、子どもたちにも伝わるような言葉を工夫し、短い言葉でも生き方のヒントになるようなものを紹介できるよう心がけています。



歳月人を待たず(陶淵明)

この言葉は、中国の詩人・陶淵明(とうえんめい)の詩に登場する一節で、「時の流れは人を待たない」という意味です。私たちがどんなに「時間よ止まれ」と願っても、時は止まらず、過ぎ去っていきます。この言葉に触れると、何となく焦りを感じる方もいるかもしれませんが、禅の教えに照らしてみると少し違った意味が見えてきます。


禅では、「今この瞬間」を生きることが大切だと教えます。過去に囚われることなく、未来に心を奪われることなく、ただ「今」に集中すること。なぜなら、過ぎ去った時間は戻らず、未来はまだ来ていないからです。私たちが本当に生きられるのは、まさに今この瞬間だけなのです。

しかし、現代の生活は忙しく、私たちの意識は過去の後悔や未来への不安に引っ張られがちです。仕事の締め切り、家族の予定、社会の変化など、頭の中が絶え間なく動き続けています。そんな時、この「歳月人を待たず」という言葉が、ふと立ち止まって「今」を見つめ直すきっかけをくれるのではないでしょうか。

修行道場では、毎日同じことを繰り返す単調な生活を送ります。一見すると、変化がなく退屈に感じるかもしれませんが、この生活の中で「今」に心を向ける訓練をします。朝の坐禅で感じる自分の呼吸、食事で口に運ぶ一粒一粒のお米、掃除の際に手が触れる床の感触。その全てが「今」を大切にする練習です。「歳月人を待たず」という言葉は、時が流れるからこそ「今」を丁寧に生きることの大切さを教えてくれるのです。

今のじかんは
今だけのたからもの
二度とこない今を
めいっぱい楽しもう


次に、子ども向けの言葉です。
子どもたちは、「今」という時間に対して自然な感覚で生きています。楽しい遊びや大好きな活動に夢中になる姿を見ると、「今この瞬間を全力で生きること」がどれほど素晴らしいかを思い出させてくれます。一方で、学校の宿題や将来の準備に追われてしまい、「今を楽しむ」気持ちが薄れてしまうこともあるかもしれません。

この言葉は、「今の時間が特別で大切なものである」ことを伝えています。「今だけのたからもの」という言葉には、「今しかできないことがある」「その瞬間を大切にしよう」という願いを込めています。


「一期一会」という言葉があります。一期一会とは、「人生の中で出会う一つ一つの出来事や人は、すべて一度きりのものであり、二度と同じ形では訪れない」という教えです。子どもたちにも、この考え方を簡単に伝えると、「今日という日は今日だけ」という意味になるでしょう。そして、「今日」を楽しく過ごすことこそが、未来の自分への最高の贈り物になるのです。


若い時代を楽しむということ

私たちは、人生を振り返るとき、若い時代の出来事やその時に感じたことを特別に思い出します。それは、その時代が時間の流れの中で「輝いていた」からではないでしょうか。「歳月人を待たず」は、ただ時の流れを嘆く言葉ではなく、今しかない若い時代を楽しむ大切さを説いています。そして大事なことは「今しかできないことに全力で向き合う」姿勢です。若い時代を楽しむことは、ただ遊ぶだけでなく、自分がその瞬間にできる最善のことを精一杯行うという意味でもあります。


禅の生き方

「歳月人を待たず」という言葉を通じて、大人も子どもも「今」という時間の大切さに気づき、毎日をもっと楽しんでほしいと願っています。
仏教の教えでは、「感謝」や「報恩」の心が重視されます。若い時代に感じた喜びや苦労、それを支えてくれた人々への感謝を忘れないことは、禅が説く大切な生き方です。時間は戻ることがありませんが、「今」に全力で生きることで、過去も未来もより豊かになるのです。


最後に

お寺の掲示板の言葉が、日々の生活に追われる中で、少しでも心の休息や気づきのきっかけになれば幸いです。

「歳月人を待たず」の教えを胸に、若い時代の大切さや「今」を生きる意義を感じながら、それぞれの人生を豊かに過ごしていただければと思います。

曹洞宗 永泉寺

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